最高裁で退職金全額不支給が適法と認められる 運賃着服その他で懲戒免職の京都市バス元運転手が敗訴 懲戒免職処分取消等請求事件
個人的に気になっていたので記録をば。
サマリー
地方公共団体が経営する自動車運送事業のバスの運転手として勤務していた職員が運賃の着服等を理由とする懲戒免職処分に伴って受けた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分が、裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例(つまり退職金全額不支給は違法なものであるとした判断が違法である、とされた事例。)
経緯
当該バス運転士は令和4年2月11日の勤務中、乗客から5人分の運賃(合計1,150円)の支払を受けた際、硬貨を運賃箱入れさせた上で、千円札1枚を手で受け取り、その後、これを売上金として処理することなく着服した(以下「本件着服行為」という。)。
また、京都市交通局は、バスの車内における電子たばこの使用を禁止していたところ、被上告人は、令和4年2月11日、12日、16日及び17日の乗務に際して、乗客のいない停車中のバスの運転席において、合計5回、電子たばこを使用した(以下、これらの行為を「本件喫煙類似行為」といい、本件着服行為と併せて「本件非違行為」という。)。
本件管理者は、令和4年2月18日、バスのドライブレコーダーにより運転手の業務状況を点検した際、本件非違行為を把握した。当該バス運転士は、同日、上司との面談において、本件喫煙類似行為をしたことは認めたが、本件着服行為については、当初これを否定し、上司からの指摘を受けてこれを認めるに至った。
本件管理者は、令和4年3月2日、被上告人に対し、本件非違行為を理由として、本件懲戒免職処分をした上で、一般の退職手当等(1211万4214円)の全部を支給しないこととする本件全部支給制限処分をした。
裁判の流れ
原審は、上記事実関係等の下において、本件懲戒免職処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとした上で、要旨次のとおり判断し、本件全部支給制限処分の取消請求を認容した。
被上告人(当該バス運転士)の職務内容は民間の同種の事業におけるものと異ならないこと、本件非違行為によって、実際にバスの運行等に支障が生じ、又は公務に対する信頼が害されたとは認められないこと、本件着服行為による被害金額は1,000円にとどまり、被害弁償もされていること、被上告人の在職期間は29年に及び、一般の退職手当等の額は1211万円余りであったこと、被上告人には、本件非違行為以外に一般服務や公金等の取扱いに関する非違行為はみられないこと等をしんしゃくすると、本件全部支給制限処分は、非違行為の程度及び内容に比して酷に過ぎるものといわざるを得ず、社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱したものとして違法である。
しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を管理者の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである(最高裁令和4年(行ヒ)第27
4号同5年6月27日第三小法廷判決・民集77巻5号1049頁参照)。
本件着服行為は、公務の遂行中に職務上取り扱う公金を着服したというものであって、それ自体、重大な非違行為である。そして、バスの運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場にある上、通常1人で乗務することから、その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、その観点から、京都市交通局職員服務規程(平成2年京都市交通局管理規程第3号の16)において、勤務中の私金の所持が禁止されている(20条)。そうすると、本件着服行為は、上告人が経営する自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を大きく損なうものということができる。
また、本件喫煙類似行為についてみると、被上告人は、バスの運転手として乗務の際に、1週間に5回も電子たばこを使用したというのであるから、勤務の状況が良好でないことを示す事情として評価されてもやむを得ないものである。そして、本件非違行為に至った経緯に特段酌むべき事情はなく、被上告人(当該バス運転士)は、それらが発覚した後の上司との面談の際にも、当初は本件着服行為を否認しようとするなど、その態度が誠実なものであったということはできない。
これらの事情に照らせば、本件着服行為の被害金額が1,000円でありその被害弁償が行われていることや、被上告人が約29年にわたり勤続し、その間、一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分を受けたことがないこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る本件管理者の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
判決
令和7年4月17日に最高裁判所第一小法廷は運賃1,000円を着服した上、勤務時間中に電子タバコを吸った等の理由から懲戒免職処分をし、退職手当等全額(1211万4214円)を支給しないことを違法とした原審の判断・解釈適用が違法であり、処分が重すぎ職権濫用に当たるなどとする第二審を破棄し、退職手当等全額不支給は適法とする判決を言い渡した。