希薄溶液の浸透圧の式に気体定数が登場するのはなぜか
本日は高校化学の「溶液の性質」という単元で説明される、希薄溶液の浸透圧について書きたいと思います。受験勉強中の身であり自身の知識の整理のためでもあるので、間違いを含む場合にはご指摘ください。
浸透圧とは
浸透圧とは?という見出しで書くと化学ガチ勢から怒られが発生してしまう可能性があるが、高校の化学の教科書に書いてあることを整理して書くだけなので、僕の所為ではないことから予めご了承いただきたい。明らかな間違いがありましたらご指摘ください。
化学基礎の復習
まず言葉の定義の復習であるが、
溶質:溶けている物質
溶媒:溶かしている物質
溶解:物質が液体中に均一に溶ける現象
溶液:溶解によってできた混合物
と化学基礎で習う。
半透膜
高校化学の教科書では、「一般に、溶液中のある成分は通すが、ほかの成分は通さない膜を半透膜という。」と、まず半透膜の説明がある。地雷を踏まないよう抽象的に書いてあるが、もう少し突っ込んで書くと、
溶媒は通過させるが溶質を通過させないような多孔質の膜を半透膜(semipermeable membrance)という。(「化学の基礎 岩波書店」より)
これを踏まえたうえで定義に遡れば、「溶かしている物質は通すが、溶けている物質は通さない膜のことを半透膜という」ことがわかる。
浸透圧
高校化学の教科書では、「純水」と「水溶液」を半透膜で仕切ってしばらく放置すると、水分子が半透膜を通って水溶液側に移動する。この現象を浸透という。との説明がある。
純水、すなわち、純溶媒ではなく、濃度の違う溶液同士でも浸透は起こるであろうが、高校化学ではわかりやすさのためか純水を例にしている。
U字管を想像し、仮に浸透前に半透膜で隔てられた純水と水溶液との液面高さが同じであれば、水分子が半透膜を通って水溶液側に移動する(浸透する)ので、純水の液面高さは低くなり、水溶液の液面高さは高くなる。
別単元で習う「平衡状態」になると、この純水と水溶液の液面高さはそれ以上変化しなくなる。この液面高さの差をゼロにするためには、水溶液の液面に余分な圧力を加えなければならない。この圧力を、溶液の浸透圧という。
頭の悪さ
私はここで、その頭の悪さのためにこんがらがって混乱しまったので、その原因を考えると、「液面高さの差をゼロにするために加えた圧力」と言わば媒介して「浸透圧」が定義されているためわかり辛さを感じたようだった。
シンプルに、
「液面高さの差をゼロにするために必要な圧力」=「当該溶液の浸透圧」
=はつり合っている状況と考えればスムーズに理解できてよかった。
さらに別の言い方をすれば、「拡散の原理に従い溶媒と溶液は均一になろうとし、半透膜を通れる溶媒(上記の例なら水分子)が半透膜を通って浸透しようとする圧力」ともいえ、その方が直接的でわかりやすい方もいるものと思われる。
束一的性質
この記事でのポイントはこの束一的性質にある。
希薄溶液の浸透圧は溶液のモル濃度と絶対温度に比例し、溶媒や溶質の種類には無関係である。電解質水溶液の場合は、溶液中のすべての溶質粒子(生じたイオンも含む)のモル濃度と絶対温度とに比例する。
上記は東京書籍殿の高校化学の教科書に記載のある文章であるが、難関大受験生のバイブルとなっている「化学の新研究」を覗くと、上記のような性質は束一的性質と呼ばれることがわかる。
浸透圧の式と理想気体の状態方程式の類似
上記までで長々と前置きした浸透圧は、以下の式で表される。
$$ {Π}{V} = {n}{R}{T} $$
ここで、
\(Π\)は浸透圧[Pa]
\(V\)は溶液の体積[L]
\(n\)は溶質の物質量[mol]
\(T\)は絶対温度[K]
\(R\)は気体定数[Pa・L/K・mol]
ん?気体定数と思う。それがこの記事を書いた動機である。同じような疑問をもった方がいらっしゃるのではないだろうか。希薄溶液の性質として浸透圧が説明され、そこに「気体定数」が登場する。なぜだろうか。
理想気体と希薄溶液の特徴の整理
理想気体の状態方程式は、
$$ {P}{V} = {n}{R}{T} $$
で表される。
つまり、事実上、理想気体の状態方程式と、希薄溶液の浸透圧の式は同一である。
ここで、それぞれの特徴を再確認してみる。
理想気体は、
① 気体体積に対する気体分子自身の体積は仮想的に無視する(無視できる)
② 気体の分子間力は働かないものと考える
一方、希薄溶液は、
① 溶液体積に対する溶質分子自身の体積は無視する(無視できる)
② 溶質の分子間力は働かないものと考える
これら二つに関する方程式である理想気体の状態方程式および希薄溶液の浸透圧は、気体の種類、溶媒および溶質の種類には無関係に成立する。
理想気体と希薄溶液の類似とアナロジー
理想気体と希薄溶液は、まさに数km先にお隣さんがあるような地方の土地に仮におじいちゃん(分子)が一人暮らししているが如く、ご近所付き合い(相互作用・分子間力)など発生しない、というイメージであろう。
むしろそれが、希薄であることの意味であろう。
その状況でも、ある理想気体の圧力、または、希薄溶液の浸透圧とその他の状況を定めれば、おじいちゃんが何人住んでいるか、つまり物質量\(n\)を求めることができることに、上記の方程式の意味はあるものと思われる。
そして、同様の、すなわち、理想気体、または、希薄な溶液と同じ状況ならば、対象の分子・粒子がおじいちゃんだろうが、おばあちゃんだろうが、ゲイだろうがレズビアンだろうが、分子間力・相互作用は働かないので、物質量を求める際に問題とならない。それが束一的性質の意味であろう。
理想気体に関しても、プラグマティック化学を覗くと、気体を「真空という溶媒に溶けた溶質」であると考えると、圧力とは濃度である(基本的には単位面積あたりの力だが)と記載がある。その理想的なものは希薄溶液と極めて類似していることが理解できる。
※近頃はガラ空きの電車でも若者が優先席に座っていると、気に食わないおじさんから怒られが発生するらしい。これは粒子の種類に依存しているし、相互作用を受けていると解釈でき、「希薄」な状況とは言えないのかも知れない。現実は厳しいことと実在気体・非希薄な溶液のふるまいも類似しているのかも知れない。
気体定数について
希薄溶液の浸透圧の式に気体定数が登場する理由に関しては、
① 理想気体の性質が先に研究され気体定数\(R\)が用いられた
② 希薄溶液も理想気体と似た性質を持ち気体定数\(R\)もそのまま定数として登場する
したがって、気体定数\(R\)は、体積中に分子間力(粒子の相互作用)とそれ自体の体積が無視できる粒子がある状況のとき登場する定数である、と理解することができます。あるいは、その状況でしか、定数として機能しないとも言えるかも知れません。
いずれにせよ、「気体」定数という名に惑わされず、状況に応じて理解するのが最も良い勉強になるのではないでしょうか。
補足
浸透圧に興味を持って記事を書くにあたり色々調べましたが、かなり奥が深く、熱力学や分子論的な話にまで及ぶと理解しきれませんでした。これらをさらに深く調べ理解するには、受験勉強に追われない程度の十分な時間と、環境が必要です。
それは大学に入ってからのお楽しみです。早く大学に受かりたいです。
記事を書くにあたって読んだ本
化学の基礎 岩波書店
新・物理入門 駿台文庫
理論物理への道標 上巻 河合出版
物理教室 河合出版
思考訓練の場としての体系化学
化学 東京書籍(教科書)
プラグマティック化学 河合出版
化学の新研究 三省堂